作業内容が決まれば、次は資機材の手配だった。
掘削そのものよりも前に、すでに工程の大半はここで決まってしまう。
掘削を行う装置全体を、掘削リグと呼ぶ。
リグと言っても、ドリルを吊り下げるための高さ五十メートルほどの櫓だけを指すわけではない。掘り屑を地表に運び上げるための泥水を循環させるポンプ、発電機、制御室、資材置き場まで含めた、ひとつの工事現場そのものだ。
リグの確保は、掘削工程を大きく左右する。
海上掘削であれば、国際的な石油価格やリグ市場の動向次第で、傭船料や動員時期が大きく変わる。空いているリグが見つからなければ、設計がどれほど完璧でも計画は動かない。
だが今回は陸上掘削だった。
いつもどおり、グループ会社が保有するリグを使う。彼らは、浅い温泉井戸の掘削などを除けば、ほとんどグループ外の仕事を受けない。国内の陸上掘削において、リグが工程のボトルネックになることはまずなかった。
予定表は、静かに埋まっていく。
掘削では、地層を掘り抜いたあと、鋼管――ケーシングを坑内に降ろし、セメントで固定する。
一本で一トンを超える鋼管を、百本単位で使う。調達にはリードタイムがあり、仮置きする場所も必要で、決済の段取りもある。技術というより、段取りの仕事だ。
このあたりは資材部との連携が重要になる。
幸い、日本の鉄鋼技術は石油業界でも評価が高く、国内開発では当然のように国産のケーシングを使う。輸送距離も短く、品質も安定している。
日本で掘るというだけで、いくつかの心配事は最初から消えていた。
一方で、坑内で使う特殊な機器は事情が違う。
生産層を選択的に遮蔽する装置や、仕上げに使う部品の多くは海外製だ。アメリカ、特にテキサス周辺に製造拠点が集中している。
こちらは、石油価格が上がれば品薄になり、下がれば納期が読めなくなる。リグと同じく、国際的な相場に左右される。
もっとも、今回の井戸では使う機器もほぼ決まっていた。
前回の掘削で余った予備品があり、調達記録も残っている。新しく考えることは少ない。リストをなぞり、数量を確認し、手配を進めるだけだった。
若手でも十分にこなせる仕事だ、と主人公は思った。
実際、問題は起きないだろう。
そういう前提で、準備は進んでいた。